「UXデザイン」という言葉は気になるけれど、正直なところよく分からない、そう感じるのは当然のことです。
近年、ビジネスの現場で「UX(顧客体験)デザインが大事だ」とよく言われます。しかし、実際に「それって何?」と聞かれると、なんとなく「アプリやWebサイトの使い勝手を良くすること」や「画面をおしゃれにすること」と答えてしまう方が多いのではないでしょうか。
そう思ってしまうのは知識不足だからではなく、日本のビジネス文化の中に「デザイン = 見た目や装飾をきれいにすること」という認識が長年染み付いているからです。特許庁が公表した『「デザイン経営」宣言』でも、企業がデザインを「見た目の装飾」として捉えてきた歴史的な背景に触れられており、これは個人の問題というよりも、業界全体の認識の課題と言えます。
本記事では、UXデザインの定義やUIとの違い、具体的な事例を分かりやすく解説します。さらに、UXデザインが事業の成長や経営の成果に直結する理由をひも解きながら、社内の共通認識づくりや、次の一歩を踏み出すための具体的な進め方をご紹介します。
UXデザインの本当の役割とは?
UXデザインの本当の役割とは、画面の見た目や使いやすさを良くすることだけではありません。「顧客が抱える本当の悩みに気づき、製品やサービスに出会ってから使い終わるまでの、すべての体験を心地よいものに設計すること」です。
身近な例で考えてみましょう。たとえば、近所にあるお気に入りのカフェを思い浮かべてみてください。そのカフェにおけるUXとは、コーヒーの味(商品の品質)だけではありません。
店に入ったときのスタッフの挨拶、注文のスムーズさ、席の心地よさ、お会計のしやすさ、そして「また来たいな」と感じる帰り際の余韻。これらすべての要素が重なり合って、初めて「心地よい体験」が生まれています。
UXデザインとは、まさにこの「一連の体験のすべて」を意図的に組み立てることを指します。デジタルのアプリやWebサイトの話だけでなく、実店舗の案内、商品のパッケージ、サービスの申し込み手続き、問い合わせ時のサポート対応など、あらゆる接点を含めた「ビジネス全体の体験の設計」が、UXデザインのカバーする領域です。
UXデザインによくある「3つの誤解」
UXデザインに対して誤解が生じやすいのには、いくつかの理由があります。特に次の3つは、よくある「思い込みのパターン」です。
誤解①:「UI」と「UX」を同じものだと混同している
「UX」と「UI(ユーザーインターフェース)」はよくセットで語られますが、実際には別の概念です。分かりやすく整理してみましょう。
・UI(接点としてのデザイン):ユーザーが実際に触れる、あるいは目にする「接点」のこと。ボタンの色、文字の大きさ、メニューの位置など、画面や実物の操作部分を指します。
・UX(体験としてのデザイン):UIを含めたすべての接点を通じて、顧客の心の中に生まれる「感情、印象、体験のすべて」のこと。
先ほどのカフェの例で言えば、UIは「メニュー表のデザイン」や「レジのボタン配置」に当たり、UXは「そのカフェで過ごした時間全体の心地よさ」に当たります。UIはUXを構成する重要な要素の一つですが、画面だけをきれいに(=UIを改善)しても、それだけでUXが良くなるとは限りません。
「画面はきれいにしたのに、なぜか使いにくいと言われる」という悩みがある場合、UIだけを整えて、UXの設計が抜け落ちている可能性が高いと言えます。
誤解②:「デジタル領域(アプリやWeb)だけの話」だと思っている
「UXデザイン」という言葉は、ITやWebの分野で広まったため、「専門的な技術者だけのもの」と捉えられがちです。しかし、カフェの例からも分かるように、UXはあらゆる業種やビジネスに関わっています。
たとえば、企業向けビジネスを考えてみます。見込み客が初めて自社を知り、問い合わせをし、提案を受けて契約し、実際に製品を使い始めるまでのすべてのプロセス。この一連の流れの中で顧客が何を感じ、どう行動するかを設計することも、重要なUXデザインです。「IT系ではないから自社には関係ない」と思い込んでしまうことは、ビジネスにおける大きな機会損失に繋がりかねません。
誤解③:「コストがかかるだけで、成果が見えにくい」と思っている
「UXに投資しても、売上への効果がよく分からない」という声はよく聞かれます。体験の質という無形の価値は数値化しにくく、すぐに売上として現れにくいため、そう感じるのも無理はありません。
「申し込み手続きが複雑で、途中で面倒になってやめた」
「問い合わせの返信が遅くて、不信感を抱いた」
「操作方法が分かりにくくて、使うのをやめてしまった」
これらはすべて、UXの悪さが引き起こしている機会損失です。裏を返せば、UXをあらかじめ設計・改善しておくことで、こうしたビジネスの損失を未然に防ぐことができます。
「人間を中心に考える」 —UXデザインが経営の根幹になる理由 —
こうした考え方は、一企業の話にとどまらず、国のポリシーとしても推奨されています。『「デザイン経営」宣言』では、デザインの力をブランド構築やイノベーションに活かす経営手法が提唱されています。
この中で、経営の姿勢として明確に示されているのが「人(ユーザー)を中心に考えること」です。根本的な課題を発見し、これまでの常識にとらわれない解決策を柔軟に生み出すこと。これはまさに、UXデザインの思考プロセスそのものです。
つまり、本来のUXデザインとは、単に「画面に使いやすいボタンを配置すること」ではなく、「顧客が何に困っているのかを深く理解し、その解決策を事業全体の体験として設計すること」を指します。これは製品開発、マーケティング、販売、カスタマーサポートなど、すべての事業活動に関わる、経営レベルの取り組みでもあります。
「デザイン=見た目」という誤解からの脱却
日本では、「デザイン」というとどうしても「見た目をきれいに飾ること」や「スタイリッシュにすること」として捉えられがちです。
しかし実際には、優れた体験を生み出す組織の多くは、デザインを「問題を発見し、解決策を設計する思考プロセス」として捉えています。見た目の美しさは、その結果として自然に生まれるものに過ぎません。
「デザインとは装飾ではなく、課題を解決するための設計プロセスである」という認識への転換こそが、本当の意味でUXデザインを実践するための第一歩になります。
UXデザインを実践する3つのステップ
UXデザインの重要性や本来の役割は理解できたとしても、「具体的に何から手をつければよいのか」と悩む方は少なくありません。そこで、まずは実践すべき基本の3ステップを分かりやすく整理します。
ステップ1:顧客を「数字」ではなく「人」として理解する
UXデザインの第一歩は、顧客のことを「アクセス数」や「購入件数」といった数字だけで捉えず、「何に困っているか」「何を望んでいるか」という感情や動機の側面から理解することです。
これは、顧客へのヒアリングや日々の対話、行動観察(顧客理解の調査)を通じて行われます。たとえば、ネットショップで「購入画面での離脱が多い」というデータがある場合、数字を眺めるだけでなく、実際に顧客がどこで迷い、どのような不安を感じているかを直接確かめます。顧客を「生身の人間」として解像度高く理解することが、的外れな改善策を繰り返してしまうリスクを防ぐ土台になります。
ステップ2:体験の「全体地図」を描く
顧客が商品やサービスに出会ってから使い終わるまでの、すべての接点を一本の線として書き出す作業を行います。
これは専門的には「カスタマージャーニーマップ」などと呼ばれますが、難しく捉える必要はありません。「お客様は最初、どこでうちを知るのか?」「そこから購入までどんな道筋をたどるのか?」「使った後、どのような関係が続くのか?」を書き出すだけです。この全体地図を描くことで、「ここで顧客が迷っている」「この段階で不満が生まれている」というボトルネックが目に見える形になり、優先して解決すべき場所が明確になります。
ステップ3:小さく試して、繰り返し改善する
UXデザインは、一度作って完成ではありません。仮説を立て、試作品を作って実際に試してもらい、顧客の反応を見て改善する。このサイクルを繰り返すことが、体験の質を高め続ける最も確実なアプローチです。
「完璧な計画を立ててから一気に開発する」のではなく、「まず小さく形にして試す」という姿勢が重要です。早い段階で小さな違和感や使いにくさを発見して修正する方が、多額の投資をした後に失敗するよりも、長期的にははるかに時間とコストを節約できます。
UXデザインを自社だけで抱え込まない
ここまでの内容を読んで、「やるべきことはわかった。でも、自社だけで推進するのは難しそうだ」と感じるかもしれません。
実際、UXデザインの推進において障壁になりやすいのは、「方法論が分からない」という技術的な問題よりも、「社内の認識が揃わない」「経営層の理解が得られない」といった組織内の認識のズレです。
「課題を発見し、体験や仕組みを設計するプロセス」を事業全体に浸透させるには、単なる画面の改善だけでなく、組織の意識改革やビジョン策定まで含めて、客観的な視点から伴走してくれるパートナーが必要になるケースも少なくありません。
事例:「画面の外」まで含めて体験を設計
ここまでの3ステップ——顧客を人として理解し、体験の全体地図を描き、小さく試して改善する——が、実際にどう形になるのか。Cloud Creativeが伴走した、ときしろ様の事例をご紹介します。
「余白」という感情を、体験に設計する
ときしろ様がサイトに求めたのは、作品数の多さでも派手さでもなく、「時間の余白」や「ストーリー感」を感じてもらうことでした。これは記事のステップ1「顧客(=サイトを訪れる人)を、数字ではなく感情から理解する」に近い出発点です。私たちは、伝えたい「感情」を起点に、余白とのバランスを一つひとつ設計していきました。UIとしての見た目を整えるだけでなく、ページを巡るあいだに生まれる印象——つまりUX——そのものを組み立てた、と言えます。
さらに大切にしたのが、ステップ3の「小さく試して、改善し続ける」姿勢です。見せたい写真をご自身でCMSから差し替えられるようにし、公開後も体験を育て続けられる状態にしました。限られた予算の中でも優先順位をつけ、テンプレートに寄せずに「らしさ」を保つ——UXが「作って終わり」ではないことを、仕組みとして実装した例です。
UXデザインとは、画面をきれいにすること(UI)ではなく、顧客が触れるすべての瞬間に、意図した「感情」を設計することです。ときしろ様は余白という体験を、「人がどう感じるか」を起点に設計し、改善できる形に整えました。デジタルか否かを問わず、体験は設計できます。
まとめ:
UXデザインの本質とは、「商品やサービスに出会ってから使い終わるまでのすべての体験を、顧客の視点で設計すること」です。画面の装飾だけでなく、営業やサポート、手続きの動線も含めたビジネス全体の接点の設計に関わります。
日本のビジネス文化に根強く残る「デザイン=見た目を整えるもの」という古い認識を、「デザイン=課題解決の設計プロセス」へと転換させることが、事業の価値を高め続けるための第一歩です。
まずは、自社のUXの「現在地」を知ることから
「UXの重要性を上層部や他部署にうまく説明できない」「顧客体験を軸にした戦略をどう描けばいいか分からない」「社内の理解が進まず、予算や人員を割けない」——UX推進でつまずく多くは、手法ではなく「社内の認識のズレ」にあります。
私たちCloud Creativeは単なる制作会社ではなく、「その接点で相手が何を感じるか」から設計するパートナーです。組織のUXの現状把握から、社内への啓蒙、経営と現場を繋ぐ戦略設計まで、一貫して伴走します。
- 組織のUX理解度の現状診断
- 顧客体験(カスタマージャーニー)の全体地図づくり
- 社内の認識を揃えるための啓蒙・戦略設計のご提案
まずは現状の課題や「なんとなくの引っかかり」をお気軽にご相談ください!